白い花

私は朝もやの中都心から少し離れた郊外を歩く。
何もかもがぼんやりした幻想世界に入り込んだようだ。

途中で女に出会った。
「お久しぶりです」
辺り一面を花が覆っているような感覚にとらわれた。元恋人だった。
かつて感じた愛おしい気持ち、うまく制御できなかった苦い記憶。
しばらくするとあの頃の懐かしい気分が戻ってきた。

「なんだか、不思議ですね。こんな時間にこんな場所で・・・。」
彼女は相変わらず自然な敬語を使って話を続けている。
「なんで、別れたんだろうな・・・。」私は突然言った。
「・・・・・ごめんな。」
思わず顔をそむける私。
一瞬の沈黙。

「そんなことはないですよ。私なんかを好きになってくれたことを感謝しています。あの時、あなたは私にとって唯一の人だったのですよ」
彼女は自然に笑ってこう言った。不思議な感覚。
その感覚と同時にかつて一緒に見た白い花が頭の中で重なって消えていった。