千年女優

ストーリーは単純で、一人の女性が戦前における思想犯の絵描きと出会い、一度の約束を信じ続けて、そのために女優となり追いかけ続けるという話である。細かいことを言えば、老婆となったヒロイン藤原千代子と取材に来た立花が劇と現実を織り交ぜて回想していく話である。狂気にも似た愛という副題がついていたが、まあそんなところだろうと思う。
映像描写で秀逸だったのは、女優として演じた役柄と現実を織り交ぜながらあまり違和感なく、気持ちよく美しく描ききっているところであると思う。絵はいわゆる萌えを意識したような絵ではなく、地味なジブリ系の絵であるが、表情描写が繊細で声優の演技も良く、キャラクターに十分感情移入できるほどの魅力があった。
というのが、筋と映像技術の話であるが、全体として文化庁メディア芸術祭大賞を受賞したのに恥じない面白い作品に仕上がっていると感じた。

個人的に、一つの指きりと約束というエピソードがツボにはまり、最後の方では涙を流すほど感動した。絵やその硬いイメージで敬遠している人がいるのであれば、是非一度視聴することをお勧めする作品である。惜しむらくは、番組宣伝ムービーの中の音楽と作品が乖離していることと作品名がしっくりきていないということである。「狂気にも似た愛」というのがいい題名かと思う。女優という言葉は少し硬い印象を受ける。
ただ、ヒロイン特に少女時代の純真さはとても魅力的だった。また、思想犯を拷問した特高警察のおっちゃんの戦後が壮絶だったし、とても印象深い。ストーリーラストの「追い続ける自分が好き」ということに賛否両論あるようであるが、彼女の純粋な心が表れている気がするので私は良いと思った。鍵の君との淡い純真な恋愛感情を特に際立たせていると感じた。