〔本〕城繁幸著「若者はなぜ3年で辞めるのか?年功序列が奪う日本の未来」

著者は東大法学部卒の元富士通社員。人事部で成果主義導入の現場を経験し、著書「成果主義の崩壊」がベストセラーとなった。本著では、日本の年功序列制度が右肩上がりの経済を前提とした昭和的価値観の作り出した幻想、ねずみ講まがいの制度であると断じ、政治的な意見表出の弱い若者を搾取する制度であると糾弾している。本指摘は的を得ている点が多いが、その代替的制度としての職能制(職務の内容・性質に応じて人材を当てはめる制度)に対する批判精神は弱い。大陸型(日本型)の職階制(新卒一括採用、年功序列制)は組織への忠誠心、技術の蓄積・伝達といった観点で利点がある点は著者も認めているが、こうした利点が職能制であると失われるという点への言及はなかった。
派遣労働者の拡大、ニート、フリーター、少子問題、といった現在の現象の分析としては良い本であるが、その処方箋の言及に乏しいという印象だった。
また、「平等な条件で競争して負けたならばしょうがない」という記述から、本当に負けた人間の苦しみや辛さへの理解が著者に欠けていると感じた。本当の弱者にはやはり手を差し伸べる必要があると私は思っている。ロールズの正義論ではないけれども。