〔エッセイ〕ヘタレオタクへの道

97年夏。89年の近鉄3連勝、4連敗の時代、そう、私は小学校2年生の頃からプロ野球オタクであり、観るだけでは飽き足らず、中学2年生の頃には強引に野球部に転部するほどだった。 そんな私がこの年の夏、鬱屈とした思いにとらわれていた。好きなヤクルトは小早川の3連発に始まり、首位を独走していたのにも関わらずである。高校野球部に入らず、フラフラしていたというのもあった。代打の切り札ともてはやされたが、結局レギュラーにはなれず、挫折したのが原因だった。勉強も右肩下がりで成績は落ち込み、中3の頃、英検準2級にクラスで唯一落ちるほどであった。出会いを期待して入った予備校も行く気が失せ始め、サボるようになり、某通信教育もどんどん滞納していくというような状態だった。
 勉強もダメ、スポーツもダメとなれば、もうヤケしか起きない。好きなプロ野球観戦もいつまでできるか分からない。それでも、野球バカとしては神宮に足を向けていた。それも、悪友Sと一緒にである。
 「おい、こないだヤバイものにハマっちゃったぜ。」
 「あ、なんだ。おまえ、ヤクルト調子いいんだし、気分いいんじゃないのか。なんだ、ヤバイものって。」
 「エヴァ。」
 「別に普通じゃないのか。」
 「そうなのか、初めて聞いたぜ。大体、最近のオレ、予備校サボるし、Z会はたまるし、こないだの中間試験なんて、赤点が3つくらいあったし、女はできね〜し、野球部は追い出されるし、最悪だぜ。こないだ、Nなんかが学年50番以内に入ってんだよ。もう、やってられんよ。ほんとに。それでさ。」
 「なんだ、いいわけがましいな。勉強なんて、どうでもいいじゃね〜か。それより、エヴァさ、おまえどっち派。やっぱ、アスカだろ。死ぬのは嫌〜。」
 「ヴァ〜カ。お前がそのセリフ言っても、全然かわいくね〜んだよ。それに、やっぱり、レイだろ。オレは断じてレイ派だね。命令があれば、そうするわ。」
 「あちゃ〜、おまえ、そういう奴じゃなかったのにな。何時からそんななったんだよ。全く。」
  というわけで、結構、あっさりヘタレオタクになっていたのである。友人Sは勉強も女も全て捨てて、オタ街道まっしぐらを覚悟しているにも関わらず、私はそれもなんとかしたいけど、オタっていいよなという状態なのだ。
  我ながら情けない限りである。その数ヵ月後、翌年の正月。高校からの帰宅途中、Sと偶然出会い、また以下のバカ話が展開された。今度は友人Sの方からこう切り出された。
  「おい、こないだの冬休みでヤバイものにハマっちゃったぜ。マジ、やべえんだよ。恥ずかしくてとてもおまえには言えね〜。」
  「だったら、言うなよ〜大体、オレはこの冬休み一年発起して、勉強しまくっていたのだから。でもさ、ヤバイのってもしかして、ときメモなんじゃないか。まさかな。」
  「おい、おまえ、どうして分かるんだ。」
  「おい、マジかよ〜あれはさすがにヤバイだろ。アニメの女の子と恋愛しちゃう、そんで現実と見境なくなるあれだろ。」
  「いや、おまえ、マジいい〜んだって。貸してやるから今すぐ帰ってやれ。」
  「ふざけんな、いいよ〜別に。やめろよ。」
  「いや、今からおまえんち行くから。俺的には片桐さんがおすすめだな。虹野もいいけど。」
  「なんだよ、それ〜」
  という会話が展開され、半ば強制的にときメモをやらされ、数時間後には片桐さんイイ。でも、虹野さん、「もうちょっと、私の傍にいてほしいな」じゃね〜うお〜という状態になっていたのである。
  今から振り返れば、まともに振舞おうとしていたけれども、エヴァにハマった時点でもはやヘタレオタク道まっしぐらに進まされていたのである。
  その後はひたすら、表と裏を使い分けるヘタレオタクを邁進したわけである。